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緩和ケアの「社会化」を目指して(医学科3年研究室研修報告書)
―2012年12月28日

山形県立中央病院緩和ケア病棟山形県立中央病院・緩和ケア病棟の中庭
山形大学医学部医学科では、3年次の夏に「研究室研修」が設けられており、各学生が希望する講座で1か月間、研修することになっている。本講座では、純粋医療・医学については関知していないため、他の講座とは異なり、医療と社会のインターフェース(境界面)から、医療社会の営為を捉え返すような課題を設定している。

今年度は、3名の学生を受け入れ、村上教授の監督の下、学生たちが「緩和ケアをめぐる地域連携の現状と今後の展望」をテーマとして、普段接する機会のないさまざまな現場の方々からそれぞれの知見を複眼的に学び、政策提言を行うことを目指した。

1か月間という短い期間ではあったが、山形県内のさまざまな医療機関(県立中央病院、三友堂病院、鶴岡市立荘内病院、日本海総合病院、訪問看護ステーション・スワン、三條外科・胃腸科医院、ねもとクリニック)の方々に御協力をいただき、学生たちによって「緩和ケアの『社会化』を目指して」を副題とした報告書がまとまった。
ここでは、考察と結論の箇所を以下に紹介したい(報告書では、インタビュー調査の詳細な結果もまとめている)。

■ 提言① 在宅志向の病棟文化の醸成と看護師の評価―病棟を地域とつなぐ
病院は、在宅緩和ケアの入口としての役割を果たしているし、果たしていかなければならない。現在、緩和ケアを受ける患者の大部分は、がんと診断され多面的な苦痛を訴える人々であるが、病院はそのような人々に在宅ケアの情報を伝え、在宅ケアを受ける意志がある人々を拾い上げていかなければならない。

しかし、各病院の連携室の看護師の方々が指摘していたように、病棟ではどうしても治療優先の思考が働いてしまうために、病棟で治療を受けている患者の在宅ケアに対する意志が見落とされることがある。他方で患者側も、医療者に遠慮して自分の希望を言い出せないでいるケースも多い。したがって、県立中央病院の神谷医師が指摘しているように、患者の本音を引き出し、そして、三友堂病院の黒田看護師長が指摘しているように、患者に自立心を失わせることのない、すぐれたコミュニケーション・スキルを磨くことが必要となる。

さらに在宅の現場からは、病棟の医師や看護師に対して、実際の治療においても在宅移行という視点を持つことを強く求める声が挙がっている。つまり、在宅の意志のある患者に対して、必要な医療を取捨選択し、ADLのよい状態ですみやかに自宅に戻せるような対応を考えていく必要がある。在宅移行は、まさに在宅緩和ケアの始まりであり、非常に重要な局面である。病棟スタッフには、移行のタイミングを上手く見極めていくことが要求されている。

一方で、むやみに在宅移行を進めて「追い出す」というような形になってしまうことは、避けなければならない。在宅移行は患者の意向が絶対条件であり、家族の支えや介護サービスなど、自宅でのサポート体制の構築が不可欠である。したがって、病院側は、在宅移行後のことまでしっかりと責任をもって対処する必要があり、家族に対して支援マニュアルのようなパンフレットを作って指導することはもちろん、退院後のフォローアップや、在宅ケアが困難になった場合にはいつでも病院に戻って来れる環境を整えるなど継続的なサポートを行うことで、患者・家族の在宅ケアに対する不安感を和らげることができる。

これらの取り組みの中心にはやはり経験豊富な病棟の看護師が位置づけられるであろう。そうしたベテラン看護師のジェネラルな能力を評価するために、認定看護師や専門看護師とは異なる資格認証制度が必要である。

■ 提言② 緩和ケア病棟のさらなる整備の必要性―在宅医療との連携
病院によっては、自院の中に苦痛緩和を専門に行う緩和ケア病棟を設置して、一般病棟と連携し看取りまで行っているところもある。しかし、緩和ケア病棟のない二次医療圏もあり、病院のキャパシティーなどを考慮すると、緩和ケアを望む患者全てを病院で対応して終末期までコントロールしていくにはかなり厳しいものがあり、やはり在宅ケアの役割はますます大きくなってくると思われる。

しかし、在宅緩和ケアの実施のためには、後方ベッドの確保が不可欠である。主治医を変更させるかたちで一般病棟に入院するのは困難であるため、在宅緩和の現場からみれば、緩和ケア病棟のさらなる整備の必要性が生まれる。県立中央病院の既存の緩和ケア病棟の増床とともに、(各医療圏でも)より地域にひらかれた緩和ケア病棟の整備が必要である。

■ 提言③ 緩和ケアチームの存在の明確化―患者との水平的なコミュニケーションのために
緩和ケアチームの活動が積極的に進められているが、まだ十分ではない。とくに一般病棟では、緩和ケアのサポートが必要な患者に必ずしもチームが介入できていないケースがみられる。私たちが参加した山形県緩和医療研究会でも、各病院のがん認定看護師の方々からコミュニケーション上の悩みを多く伺った。したがって、各病院では、苦痛を抱えるがん患者がいつでも緩和ケアチームに相談できる体制を整え、そのことを患者に明示する仕組みをつくることが重要であると考える。

■ 提言④ 「かかりつけ」の診療所の役割の拡大を―在宅緩和の裾野を広げる
病院からの在宅移行によって、疼痛コントロールと病態管理の仕事は、病院内の医師から診療所のかかりつけ医に引き継がれる。在宅での病態急変時に迅速に対応するためには、やはり24時間体制が要求されるが、現実問題として24時間対応の在宅療養支援診療所(在支診)登録を行っている診療所や実質的に機能している診療所は十分に増えていない。

その理由として、夜間帯の呼び出しに応じなければならないという束縛感と、日中の通常外来時の緊急呼び出しにどのように対応したらよいかといった悩みが挙げられる。また、複雑な病態を抱える終末期のがん患者の症状コントロールに対して、医師側が不安を抱えていることも考えられる。このような問題の背景には、在宅緩和ケアを医師一人が全て担っていかなければならないという医師側の思い込みがあり、一人ですべて背負い込もうとして自ら在宅緩和ケアのハードルを上げているように思われる。

しかし、日本海総合病院の退院支援部署の高橋看護師長、訪問看護ステーションスワンの後藤所長、ねもとクリニックの根本院長がみな口をそろえて指摘していたのは、診療所の訪問看護ステーションの看護師とうまく連携を図ることで、往診・訪問診療の機会を減らし医師の負担を軽減することができることだ。さらに、地域の病院との病診連携を密に図ることで、疼痛コントロールが困難になった場合など、いつでも病院に再入院させるという選択をとることもできている。

これらの取り組みは、在宅緩和ケアにおける医師負担の問題解決につながる重要な糸口であり、その本質は言うまでもなく地域の複数の医療者と介護者による多職種連携にある。在宅移行を進めるための計画立案時にはケアマネジャーの他にも医療ソーシャルワーカーが関与し(診療所に医療ソーシャルワーカーの配置を望む病院関係者は多い)、疼痛コントロール時には、医療用麻薬投与の処方計画などに薬剤師も関わることができる。

在宅医は、このような複数の職種とうまく連携を図りながら緩和ケアチームをまとめ、指示を出す立場にあると考える。このようなスタンスで在宅緩和ケアを考えれば、根本院長が指摘しているように、多職種が分担してそれぞれの役割を果たすことで、医師個人が背負い込む負担はそれほど大きくならない。

さらに、荘内病院の渋谷看護師が訴えているように、複数の専門家が関わるチーム医療の体制は、多くのスタッフがサポートしてくれているという安心感を患者・家族に与えることにもなり、この点においても多職種連携のメリットは大きい。

したがって、在宅医療を政策的に推進するために解決すべき課題は、一般診療所と在宅医療に取り組む診療所との間にある溝の大きさである。診療報酬の過度の差別化で在支診を特別視するのではなく、根本院長がいうように、かかりつけ医の延長として在宅医療に取り組める方向で制度を整備するべきである。その意味では、24年診療報酬改定で打ち出した機能強化型の在支診では一般診療所との連携も認めており一定の評価はできるかもしれないが、算定要件の設定が厳しく、緩やかな連携を促進するものとはなっていない。

■ 提言⑤ 病院も含めた多職種連携の土壌を作る「場」の創出が重要
しかし、そうした多職種連携に根ざした在宅医療は、制度を整備したからといって一朝一夕のうちに実現するものではない。そして、異なる職種の人間が絡む多職種連携においては、コミュニケーションの取り方も問題となってくる。

そこで、三條外科胃腸科の三條医師は、iPadなどの電子端末を用いて、SNSの形式でリアルタイム型の情報交換を行う試みを進めている。そして、病診連携と医介連携のハブとしての診療所の役割を追求している。この取り組みは、問題中心型の水平的なコミュニケーションを可能にするという点で今後のモデルとなるものであると考える。また、その場合には、病病連携におけるITも含め、三條医師が指摘しているように専門的な情報管理システムが重要になり、医療情報システム監査人(MISCA)のような人材の配置が求められる。

ただし、最先端の情報インフラを年配の医師などに普及させるのはなかなか困難であり、現状、地域におけるコミュニケーションの場として最も適当だと思われるのが、根本院長らが進めている地域レベルでの多職種参加の勉強会である。複数の異なる医療関係者と介護関係者が参加して、それぞれの立場から在宅緩和ケアを見つめることのできるこのような勉強会では、顔の見える交流につながり、職種間の「壁」も取り払われ、自然と連携の枠組みも拡大していく。

そして、この勉強会には在宅医療に携わるものだけではなく、病院の医師や看護師も積極的に参加すべきである。スワンの後藤所長らも、病院の関係者こそが在宅医療の現場を知る必要があると指摘している。

こうして円滑なコミュニケーションを図りながら地域全体がチームとして在宅緩和ケアに取り組むことができれば(制度的には緩和ケアセンターの機能拡大がポイントになるだろう)、どこかに過重な負担がかかってつぶれるようなことはなく、持続可能で安定した医療とサポートとを患者・家族に対して提供していくことができるものと考える。

■ 提言⑥ 大学や行政の果たすべき役割も大きい
いかに多職種連携を上手く図ろうとしても、職種ごとに十分な人的リソースが確保されていなければ、必ずどこかにひずみが生じてしまう。荘内病院や三友堂病院では、地域移行に積極的に取り組んでいるものの、その代償としての過重労働を危惧する声が聞かれた。

緩和ケアに取り組む診療所や訪問看護ステーションの数は、その地域における在宅緩和ケアの取り組みの成否に直結する。今回の調査でも、さまざまな立場から裾野の広げることの重要性を指摘する声が挙がった。中でも、訪問看護師は、医療上のスキルのみならず、病院と診療所、診療所と在宅、さらには医療と介護の間を仲介する役割を果たしており、いわば多職種連携の潤滑油と呼べる存在である。したがって、訪問看護師の育成所の新設や地域の医療従事者や介護従事者に対する在宅緩和ケアの教育機能など、大学や行政の果たすべき役割は大きい。

他にも、医療費の問題など、各調査対象者がそれぞれの立場から指摘しているように、医療者の努力だけではなかなか改善の難しい問題が存在している。なかでも問題なのが、緊急性はないものの在宅のがん末期患者が疼痛コントロール不良になった時に、病院で疼痛コントロールを行うために病院に運ぶ際の搬送手段がないことである。

救急搬送という形をとると、救急隊の医療処置は法的義務であるため、患者は望まぬ形で医療介入を受けてしまうことになる(ちなみに、山形在宅ケア研究会でも、山形市の救命救急士の方が、在宅末期の患者で家族が主治医と連絡が取れず救急車を呼んでしまったがために、DNRのガイドラインがない以上、家族を説得してまで「心が痛む蘇生」を行わざるをえない実情が報告されていた)。しかし民間の搬送業者はほとんど存在しないため、患者の家族は大きなジレンマを抱えることとなる。そこで、民間のタクシー会社などによる搬送業務に対する政策的支援を行い、患者の家族がとれる選択肢を増やしていく必要がある。それは在宅緩和ケアを行う上での患者・家族の安心感につながり、緩和ケアのハードルを下げるという意味でも重要である。

このように、在宅緩和ケアは単に医療者だけの問題ではなく、地域行政全体を巻き込んで考えていかなければならない問題である。今回の調査では、行政に対して「在宅緩和ケアの取り組み全体について率先して引っ張って行ってくれる人がいない」と指摘する声が聴かれた。今の在宅緩和ケアの取り組みは、地域の創意工夫に頼り、バラバラに行われているのが現状である。そこにはさまざまな格差や課題が存在しており、地域ごとに住民が受けることのできる緩和ケアに大きな差が見られる。県全体でどのような緩和ケアを推進していくのか、そのビジョンを提示できる体制を構築することが必要である。

■ 結論
医療者や行政がどれだけ努力して体制を整備しても、それだけでは理想的な在宅緩和ケアを実現することは叶わない。そこには、在宅で患者を支える家族の視点が抜けているからだ。患者側からの在宅ケアに対するニーズの高まりとは裏腹に、その家族や親族の意識はまだまだ低い。どうしても在宅でサポートする側の不安は大きく、病院で最期まで看てくれることを望んでいるケースも多い。特に、最近の若い世代は死を身近に経験することが少なく、看取りに対するイメージを持つことが難しくなっている。

したがって、現状では、退院調整看護師などが個々の患者・家族に対して非常に多くの時間をかけて説明をしているのが現状であり、業務の非効率さにつながっている。もちろん、個別の患者に時間をかけることは重要であるが、在宅でのケアに対する県民の意識が高まれば、退院後のフォローアップや院内外との連携に多くの時間をかけることができるだろう。

それゆえ、患者の家族に対する社会的サポートが必要である。しかし、そうしたサポートは個々の医療者がボランタリーに行っているのが現状であり、(とくに在宅患者の)家族・介護者に対する制度的なフォローが求められる。また、学校教育の場などにおいて若い頃から人の死について考える機会を設けるとともに、地域包括ケアの推進の中で、人の死を日常生活の中に取り込む環境をつくっていくことも重要である。

在宅ケアの取り組みでは、医療従事者、介護従事者の連携ばかりに目が向けられがちであるが、自宅で最も身近に接して患者と長い時間付き添っていくのは、その家族である。そして、患者と家族の自立をサポートしていくのも医療者の役目である。しかし、一部の医療従事者、介護従事者、そして、患者・家族に過度の負担がかかる構造があってはならない。したがって、患者と家族と医療従事者・介護従事者とのつながりを強固かつ持続的なものとしていくためにも、緩和ケアに対する県民の理解と行政による支援が欠かせないのである。

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