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偶然を必然にする―島岡要『研究者のための思考法10のヒント』
―2014年12月31日

『研究者のための思考法10のヒント』表紙
マカオから山形大学に赴任して5年が経った。大学院では都市社会学(地域社会学)を専攻していたのが、山形では医療という新たな分野に身を置くことになり、言ってみれば学部生からやり直すことになった。いくつもの「偶然」の重なりと人との出会いによって山形大学医学部の採用面接にたどり着いたのだが、その際、嘉山孝正医学部長(当時)から「医療と社会をつなぐ新たな開かれた学問知が求められている」との視座を伺い、すっかり感化されてしまったからだ。

とはいえ、これまでのところ、社会学に対しても医療政策学に対しても、何にでも手を出してしまう性向があり、多くの研究は「広く浅く」にとどまり、悩みながらの日々が続いている。そうしたなかで、島岡要先生(三重大学医学系研究科分子病態学講座教授)から、『研究者のための思考法10のヒント―知的しなやかさで人生の壁を乗り越える』(羊土社、2014年)をご恵送頂いた。グローバル化の時代精神を反映した複雑性科学の成果などをベースにした本書は、これまでの自分の研究姿勢を正してくれるとともに、エールを送っていただけるものであった(グローバル化と複雑性科学の関係については、「グローバルな場所の政治学に向けて―ジョン・アーリ『グローバルな複雑性』刊行」の記事も参照されたい)。

天職へのプロセスは基本的に受け身でしかありえない


島岡教授は「天職へのプロセスは基本的に受け身でしかありえない」との洞察に基づき、「自分のやりたいことを明確にし、人生目標を具体的に立てて、その目標達成のためにひたすら努力すれば人生はうまくいく」(p.16)というアドバイスを虚構とみなす。とりわけ不確実性の高まる今日においては、周囲の状況の変化に応じて、自らを柔軟に変化・修正させる知的柔軟性こそが重要であるからだ。とはいえ、「最終的にはうまくいかないにせよ、まずプロジェクトが第一歩を踏み出すために必要」(p.96)であるために、最初に計画を立てることはかならずしも無意味なものではない。

したがって、「短期的な意図的戦略で第一歩を踏み出し、そこで出会ったリソースに触発された創発的戦略を取り入れ、戦略全体(つまり意図的戦略と創発的戦略)を修正・更新して、進んでいくという生き方」(p.17-8)が提唱される。そして、創発をもたらす偶然の機会を得るために、流動性の高い場所に身を置くことが効果的であるという。

とりわけ成熟社会の場合、イノベーションはフレーム(ものの見方)を変えることでもたらされるものであるが、1つの専門分野からの同一のフレームワークで知識を深めるconvergent(収束的)な知的活動だけでは、既存のフレーム内の狭い争いに終始してしまうきらいがある。イノベーションを起こすための創造的アイデアには、自分の専門以外の分野の知識にも理解の幅を広げるdivergent(発散的)な情報収集こそが必要なのだ(p.78)。

「スラッシュのある人生」―でも、確たる専門性が前提


ただし、それは、「広く浅く」の「ゼネラリスト」になることではない。むしろ、テクノロジーの進化とグローバル化の進展により、より深い知識と専門性をもったスペシャリストやエキスパートが必要とされるようになっている(リンダ・グラットン『ワークシフト』)。他方で、多くの専門性(とりわけ「お手軽資格」)は短時間のうちにコモディティ化される運命にもある。したがって、第1の専門性をつけ仕事をしていくなかで、次の第2、第3の専門性を身に着けることが必要になってくる。これを島岡教授は「スラッシュのある人生」(p.115)と呼ぶ(「医師/作家/○○」のように)。

とはいえ、既存のフレームの外側に出ることは、大きなストレスをもたらす。とはいえストレス・フリーも幻想に過ぎない(人びとを脆弱にするだけだ)。そこで、島岡教授は、タレブの『ブラック・スワン』を援用して、ストレスに抗するのではなく、ストレスを利用してより強くなり、より大きなストレスを許容できるようになる「抗脆弱性」(アンチ・フラジャリティ)こそが、真の安定(福岡伸一流にいえば『動的平衡』←正確には動的非平衡であろう)をもたらすことを指摘する。

カオスのなかで生まれる秩序こそが成長をもたらす。そして、そのための抗脆弱性は、試行錯誤(tinkering)を繰り返すことのできる「バーベル型のキャリア」(ローリスク・ローリターンの仕事とハイリスク・ハイリターンの仕事を片手ずつ持つ)によって創発的機会や人脈が開拓されるなかで形成されるという(第7章)。

つまりは、第1の専門性が中途半端なままで何にでも手を出す浮気性では、おそらく実を結ぶことはない(ちなみに、ひとつの専門性を身に着けるのには1万時間=1日3時間で約10年のトレーニングが必要であるとされている)。(ローリスク・ローリターンの)確たる専門性を身に着けたうえでの創発的態度こそが、価値のある研究成果を生み出すのだ! ただし、確たる専門性は必ずしも確たる制度学問であるとは限らないはずだ。

天職とはいくつもの偶然の結果(振り返ってみれば奇跡的な出会いやタイミングに思え、天から与えられるように感じることも多い)、自分の内側ではなく外側から与えられた機会に自分の内面が反応することなのです。……待てずに、自分から間違ったところに探しに行くことから苦しみが生まれるのです。(p.16)

目次


はじめに
1. 好きなことをする―天職に出会えなくても、仕事は充実する
2. 研究者と英語―日本人研究者はなぜ英語を勉強しなければならないのか
3. 研究者の幸福学―研究者も幸せになりたいのです
4. イノベーションについて知っておくべきこと―Innovation =「技術革新」ではない
5. 知的しなやかさ―結果を出すリーダーはみな軸がブレている
6. 研究者のあたらしい働き方―///スラッシュのあるキャリア
7. 抗脆弱性(アンチフラジャイル)とは―想定外の衝撃「ブラックスワン」に備える
8. 賢い選択をするには―幸せな選択と不幸な選択を分つもの
9. 創造的な仕事をするために―社会に創造的価値を提供する
10. リベラルアーツとしての論理的思考法―英語プロポーザルライティングで構想力を育てる
11. 読書術と毒書対策―無理せず優位性を構築する
12. 知的生産のための健康術―研究ができる人はなぜ筋トレをするのか…
あとがき

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